私の研究テーマは「日本の米産業再建の道筋を考える」ことです。米は日本人の主食としてかつては特別な地位にありましたが、現在は①国際競争力の低下、②国内需要の縮小、③気候変動への対応の遅れにより、縮小再生産が続いています。1967年には収穫量が1,426万トンに達しましたが、2020年は776万トンまで減少しました(農林水産省『作物統計』より)。第1次世界大戦時(1914年)の水準まで米産業が縮小したことになります。

 以上の様な動きは、米が時代の変化についていけなかっただけと考えることもできるでしょう。しかしながら、私は食料安全保障の確保、生物多様性の保持、地域経済振興等の様々な観点から、米産業を復活させる必要があると考えています。

 私の研究手法はフィールドワークと統計分析を主としています。フィールドワークは米産地を中心に、国内では茨城県、宮崎県、新潟県、山形県、北海道、広島県、島根県等、海外ではアメリカ・カリフォルニア州、ウィスコンシン州等で実施してきました。

 これまでの研究内容は、以下の4つに分けることができます。

 

1 農業政策と農業構造

 1990年代以降、日本の農業保護政策は価格支持政策から直接支払政策へ転換しました。政策転換を受けて農業構造(担い手・農地利用・生産力のあり方)がどのように変化を遂げているのか、「価格」と「制度」の変化に着目し、フィールドワークを基に研究をしています。また農業構造変動の地域的多様性や、二毛作や冬期湛水等の多様な水田利用の存立条件にも着目しています。

(主要業績は、「研究業績」ページの、2023e、2023f、2022a、2022b、2022i、2021d、2021g、2021h、2021i、2021j、2021k、2021l,2020b、2019b、2018a、2018b、2017e、2016b、2015b、2015d、2014a、2013c、2013d、2012c、2010a、2010b、2009a、2009c、2008a、2010b、2009a、2009c)

 

2 農業経営と農村社会

 水田農業においても大規模経営体が形成されつつありますが、そのような経営は「担い手」と呼ばれます。「担い手」を、①生産力の担い手、②地域社会の担い手、③政策対象としての担い手、の3点から捉え、経営の内実と地域社会との関係からその性格に接近しています。また、担い手と農村における集団的組織(農協、生産者組織、集落等)との関係についても研究しています。(2023c、2022g、2022j、2021a、2019d、2018f、2017a、2017d、2016a、2015a、2014b、2014c、2014d、2014e、2013a、2012a、2012b、2009b)

 

3 農産物市場と日本経済

 水田農業の構造変動をもたらす1つの要因となっている米価の変動を中心に、家計消費や政策(特に生産調整政策)のあり方と農産物市場の関係を分析しています。さらに、家計消費のあり方を規定する労働市場の変容と日本経済の構造転換にも迫ります。

(2024a、2023d、2023h、2022c、2022d、2022e、2022f、2019c、2017c、2015e、2013b、2008b、2007、2005)

 

4 日本の農政と世界の農政

 日本の農政転換は、WTO協定やFTA協定といった国際貿易交渉に大きく規定されます。国際関係,特に日本の主要な貿易相手国であるアメリカとの関係の中に日本農業・農政を位置づけることで、日本の農政転換の特徴を明らかにしています。また、海外農業の実態調査の実施、日本の農業政策の海外への紹介も試みています。

(2024b、2023a、2023b、2023f、2023g、2023i、2023j、2023k、2023l、2022i、2021b、2021c、2021e、2021f、2020a、2020c、2019a、2018d、2018e、2017b、2016c、2015c、2013e)

 

5 これまでの研究プロジェクト(研究代表者のみ)

・「阿見町における新規就農者の経営発展の発展プロセスの解明」,共同研究,阿見町,2023年度.

・「転作交付金と地代負担力―水田利用と農地市場への影響の解明―」,科学研究費助成事業・基盤研究(B),(独)日本学術振興会,2023~27年度. 

・「水田高度利用の構造と課題―二毛作と単収水準に焦点を当てて―」,科学研究費助成事業・基盤研究(C),(独)日本学術振興会,2020~23年度.

・「環太平洋稲作の競争構造―農業構造・生産力水準・農業政策―」,科学研究費補助金・研究成果公開促進費(学術図書),(独)日本学術振興会,2020年度.

「直接支払政策再編下の水田農業の構造変動に関する研究―日米稲作比較の視点から―」,科学研究費助成事業・基盤研究(C),(独)日本学術振興会,2017~19年度.

・「TPP体制下での日本稲作の将来―カリフォルニアからのアプローチ―」,安倍フェローシップ,米国社会科学評議会・国際交流基金日米センター,2017年度.

・「水田農業における中規模複合経営のゆくえ―山形県鶴岡市からの接近―」,「農」または「日本の農業」シリーズ調査研究事業,(一財)農政調査委員会,2014年度.

・「水田農業の担い手の経営展開と直接支払―地域別・組織形態別接近―」,科学研究費助成事業・若手研究(B),(独)日本学術振興会,2014~16年度.

・「「政策転換」と水田農業の担い手―茨城県筑西市田谷川地区からの接近―」,科学研究費補助金・研究成果公開促進費(学術図書),(独)日本学術振興会,2014年度.

・「地域的多様性に対応した水田農業構造改革の展望に関する研究」,特別研究員奨励費,(独)日本学術振興会,2011~13年度.

・「米価下落期における水田農業構造改革の条件に関する地域比較研究」,特別研究員奨励費,(独)日本学術振興会,2009~10年度.

・「「政策対応的」集落営農の性格―連続性と断絶性―」,「農」または「日本の農業」シリーズ調査研究事業,(財)農政調査委員会,2008年度.

・「米消費・流通構造再編期における大規模水田経営体の展開方向と地域農業との関係についての研究」,人文・社会科学系若手研究者研究助成,(財)日本農業研究所,2008年度.